この記事で整理すること

  • 事業譲渡はまとめて移る取引ではなく、対象を一つずつ決める
  • 決議が要るかどうかは、帳簿価額の5分の1で決まる
  • 商号を続けて使うと、債務を弁済する責任が買い手にも生じる

移り方の違いが、手続きの量を決める

厚生労働省に「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」があります。この指針は、事業譲渡を特定承継と説明しています。移したい契約があれば、相手方の同意を一つずつ取ります。同じ指針は、合併を包括承継としていて、労働契約の内容である労働条件もそのまま維持されると書いています。

会社ごと、つまり株式を譲る場合は、会社という入れ物が残ります。契約の名義も取引先との関係もそのままで、そのぶん帳簿に出ていない債務も残ります。事業譲渡では、譲り受ける側が対象を選べる代わりに、資産や契約ごとに移転の手続きが発生します。どちらを選ぶかの前に、いま自社に何があるのかを一覧にしておくと、相手が変わっても同じ資料が使えます。価格の話に入る前にそろえる書類は、「会社売却を考えたら、価格を聞く前にそろえる資料と希望条件」にまとめています。

株主総会の決議が要るかどうかは、帳簿価額で変わる

ここからは株式会社の話です。会社法467条1項は、事業の全部の譲渡(1号)と、事業の重要な一部の譲渡(2号)について、効力発生日の前日までに株主総会の決議で契約の承認を受けることを求めています。2号には括弧書きがあり、譲り渡す資産の帳簿価額が、法務省令で定める方法により算定される総資産額の5分の1を超えないものは除かれます。定款で、これを下回る割合を定めることもできます。譲る予定の資産の帳簿価額と総資産額を並べて、どちらに当たるかを見ます。

この決議は特別決議です。会社法309条2項の11号が、第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合をここに挙げています。必要なのは二つ。議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席することと、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成です。どちらも定款で動かせます。出席の要件は3分の1以上の割合まで下げることができ、賛成の割合は上げることができます。自社の定款を先に開きます。株式が親族に分散していると、ここで日程が動きます。誰が何株持っているかを、株主名簿で確かめておきます。

会社法468条には、決議が要らない場合も書かれています。1項は、特別支配会社が相手のときの規定です。相手の会社が、発行済株式の全部を持つ会社などと合わせて、自社の総株主の議決権の10分の9以上を握っていれば、467条1項1号から4号までの行為に467条を適用しません。相手だけで9割に届かなくても、子会社と合わせて届くことがあります。この10分の9も、定款で上回る割合を定めることができます。2項は買う側の話です。他の会社の事業の全部を譲り受ける場合に、対価として交付する財産の帳簿価額の合計額が純資産額の5分の1(定款で下回る割合を定めたときはその割合)を超えないときに限って、決議が不要になります。3項には、戻りの規定があります。法務省令で定める数の株式を持つ株主が、469条3項の通知または4項の公告の日から2週間以内に反対を通知すれば、決議は必要に戻ります。売る側の条文と買う側の条文が並んでいるので、どちらの話かを見てから読みます。

商号を続けて使うと、債務の責任が付いてくることがある

会社法22条1項は、譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うとしています。条文の言葉は「商号」です。看板を残すだけのつもりでも、会社名をそのまま引き継ぐならここに当たります。なお22条は譲受「会社」の規定なので、譲り受けるのが個人事業主のときは商法17条のほうを見ます。中身はほぼ同じ作りです。

同条2項は、責任を負わないようにする方法を二つ挙げています。一つは、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社が本店の所在地において責任を負わない旨を登記すること。もう一つは、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社と譲渡会社の両方から第三者に通知することで、こちらは通知を受けた第三者にだけ効きます。期限は「遅滞なく」で、日数では決まっていません。引き渡し日と、登記や通知の予定日を、契約書の日程に合わせて決めます。

売る側が読み違えやすいのが3項です。譲渡会社の責任が、事業を譲渡した日後2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対して消えるのは、「譲受会社が第一項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合」です。つまり商号を続用するなどして、買い手にも責任が生じたときの話になります。商号を続けて使わない通常の事業譲渡では、この2年は働きません。

23条と23条の2も、同じ場面で出てきます。23条は、商号を引き続き使用しない場合でも、債務を引き受ける旨の広告をしたときは、債権者が譲受会社に弁済を請求できるとしています。23条の2は、残存債権者を害することを知って事業を譲渡した場合に、承継した財産の価額を限度として履行を請求できるとするものです。ただし、譲受会社が効力の生じた時に残存債権者を害することを知らなかったときは除かれます。

従業員・許認可・消費税は、それぞれ別の確認になる

従業員については、前に出た指針が、労働契約を承継させる場合には承継予定労働者から個別の承諾を得る必要があるとしています。承諾を得るときは、事業譲渡に関する全体の状況、勤務することになる譲受会社の概要と労働条件について十分に説明し、協議を行うことが適当だと書かれています。労働条件を変えて承継させるなら、その変更についての同意が別に要ります。

売る側に残るものも、同じ指針にあります。承諾をしなかったことのみを理由とする解雇や、事業を譲渡することのみを理由とする解雇は、労働契約法16条により、権利を濫用したものとして認められない場合があります。そうした場合には、譲渡する事業部門以外の事業部門への配置転換を行うなど、雇用関係を維持するための相応の措置を講ずる必要があるとされています。人件費は、売る側に残ります。なお、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律が適用されるのは会社分割のときだけで、事業譲渡と合併には適用されません。

許認可は、業法ごとに分かれます。建設業は、全部の譲渡なら地位を承継できます。譲渡人と譲受人が、あらかじめ認可を受けることが条件です(建設業法17条の2第1項。譲受人が既に同じ種類の別区分の許可を受けている場合などは除かれます)。食品衛生法56条は、許可営業者が営業を譲渡したときの地位の承継と、遅滞なくの届出を定めています。ただし東京都保健医療局は、承継の規定が使えるのは営業の全部を譲渡する場合に限られ、一部を譲るときは使えないと案内しています。許可証の名義が自動で変わることはありません。持っている許認可を一覧にして、一つずつ所管に聞きます。

消費税も確認項目です。国税庁の質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」が、ここを扱っています。資産には課税のものと非課税のものが混ざるため、課税資産と非課税資産の対価の額を合理的に区分して課税することになる、としています。土地は非課税なので算入せず、営業権や有形固定資産は課税の対象です。関係法令通達として挙げられている消費税法施行令45条3項は、対価の額が合理的に区分されていないときに、譲渡の時における価額の割合で按分する規定です。好きなように割り振れるという話ではありません。配分の考え方は、顧問の税理士または所轄の税務署に確認する項目として残します。

移らないものを、最後に並べます。承諾しなかった従業員の人件費。承継の規定がない許認可。相手が同意しなかった契約。この三つは、手元に残ります。譲る相手が見つからなければ、たたむ側の手続きに移ります。そのときも、ここで作った一覧がそのまま使えます。

確認リスト

相談・作業の前に、ここを確認

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作業の進み具合の記録です。完了しても適法性や事業の可否を判定するものではありません。

出典・確認日

  1. e-Gov法令検索:会社法(平成十七年法律第八十六号) ↗確認日:2026-10-26
  2. e-Gov法令検索:商法(明治三十二年法律第四十八号) ↗確認日:2026-10-26
  3. 厚生労働省:事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(平成28年厚生労働省告示第318号・令和8年厚生労働省告示第11号改正) ↗確認日:2026-10-26
  4. 東京都保健医療局:事業譲渡による営業許可・届出の地位の承継について ↗確認日:2026-10-26
  5. 厚生労働省:企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について ↗確認日:2026-10-26
  6. 厚生労働省:会社分割・事業譲渡・合併における労働者保護のための手続に関するQ&A ↗確認日:2026-10-26
  7. 国税庁:営業の譲渡をした場合の対価の額(質疑応答事例・消費税) ↗確認日:2026-10-26
  8. e-Gov法令検索:消費税法施行令(昭和六十三年政令第三百六十号) ↗確認日:2026-10-26
  9. e-Gov法令検索:建設業法(昭和二十四年法律第百号) ↗確認日:2026-10-26
  10. e-Gov法令検索:食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号) ↗確認日:2026-10-26
  11. e-Gov法令検索:会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成十二年法律第百三号) ↗確認日:2026-10-26

制度の対象・期限・地域ごとの取扱いは、必ず最新の公式案内をご確認ください。本文は一般的な情報と資料整理の手順であり、個別の法務・税務判断を提供しません。